ソフトボンド


何度注意してもロボットをボロットといい張る子どもらに気合いを入れるため、近隣の街にある児童文化科学館なる場所へ出かけた。
科学的遊具がいろいろあるのはいいが、すべて老朽化しており、「こしょうちゅう」の札が張ってあるブースも散見される。それでも子供たちになかなか好評で、こちらもピュアな気持ちになって時間を過ごしていたとき、館内にアナウンスが響いた。サイエンスシアターという場所で今からコマの実験があるという。早速行ってみるとサイエンスシアターといっても小さなカウンターバーがあるだけ。


まぁそんなもんだろと開演の時刻を待っているとやがて白衣を着たご老人が来られた。ご病気だろうか、右手が小刻みに震えているのが見て取れたが、ご老人はそんなことはおかまいなしに一番乗りのわが一家に径5センチほどの丸い紙を渡した。それに何色でもいいから好きな色を塗れという。どうやら色が混ざるとおもしろい変化が見える”コマの実験”のようだ。
早速子供らと色を塗っていたのだが、ご老人はしきりにコマの作り方を教授される。ちゃんと真ん中には印が付けられており、あとは串さえ通せばいいわけで難しい過程もないのだが、それでも手取り足取り教えてくれる。そして串を通した箇所にソフトボンドを仕えという。
ソフトボンド-初めて聞く名前だが、隅に置いてあるそのソフトボンドやらを見ると、ピストルの形状をした道具のノズルからやや熱めのボンドが出るものらしい。それを使うよう、しきりにご老人はこちらに語りかけてくる。別にそんなものを使わなくてもりっぱにコマはできあがり、かつ十分うまく回転してくれていて、半分ご老人を無視して子供らとその場で遊んでいた。
そのうち10人近くの館内客が集まりそれぞれコマを作り始めていたのだが、一番乗りだったためか、ご老人はこちらに来てはソフトボンドを使うように勧める。
その執拗さにカミさんが笑いをこらえているのが気配で分かる。こちらも必死でがまんしていたのだが、それでも勧められたので、笑いを隠すためソフトボンドピストルのところへ移動した。そしてやむなくそれを手にして串の刺入部に少し注いでみた。その後コマを回しても別になんの変化もない。
まぁこれでご老人も満足されただろうとその場を離れたあと、ふと気になった。
なぜあんなにソフトボンドを勧めたのか。確かに他の家族にも勧めてはおられたのだが、こちらへの案内は異常だった。
ひょっとして我が家の構成に潜在的な疑問を抱かれたのではないだろうか。
こちらは年の差カップルのため、ご老人はこのオヤジが子供らの父親かおじいさんか悩んでいた可能性がある。
もちろん無意識のうちにだ。
一体このオヤジはなんなのだ。その疑問から醸成された言葉が頭のなかをグルグル回転し始める。まるで実験のコマのように言葉は混ざり始める。ソフトボンド、ソフトボンド、祖父とボンド…。

“ソフトボンド” への2件の返信

  1. そういえばボロットってワシらの子供の頃も言ってたような気がします。
    かなり遅くなりましたが。あけおめ~今年もよろしく~。

  2. 先の連休に旭川へ遊びに行った知人がいます。街全体がすっぽり雪で埋もれていたと驚いていましたが、人生で埋もれるよりいいと諭してあげました。
    今年も、よろしくです。

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