「かたみ歌」

うちのクリニックの建築は単純な長方形の組み合わせとは微妙に異なり、おおざっぱにいえば漢字の「下」のようになっている。書き順で「下」のはじめの横線が 1 で以下 2,3 と番号を割り振ると、これもおおざっぱに 1 のあたりに待合と患者用のトイレがあり、1 と 2 が分ける左の部分が受付と診察室、2 が診察室への廊下、3 がスタッフ用のトイレになっている。この 2 の廊下から 3 のトイレに入るとまず目に入るのが洗面台にある鏡だ。
その鏡に奇妙なものを見たのは、数年前の正月のことだった。
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だまし絵

子供らの中学入学祝いだからと、ちょっと財布のひもを緩めてみた。もちろんカミさんの英断だ。
場所はホテルのレストラン。


予約していた時間に行くと、横は5m、縦は3mはあっただろうか、壁に描かれた大きな絵の前にあるテーブルに案内された。上の2枚がその絵画で、1枚はカメラに入りきれず追加したものである。
食事を進める最中も、絵に目が行かざるを得ず、眺めていると、なんだか違和感を感じてきた。
絵のなかの同じテーブルにつく人も含め、その場の全員がお互い目を合わせておらず、奥のテーブルの男女の周囲との空間が変に狭く微妙におかしく、また右端の男性の影も気になる。

だれの作品か近くを通るスタッフに訊いても分からず、しばらくして責任者らしき男性が来ても、やはり分からないと頭を下げる。


画家のなんらかの思いが強くあらわされた絵なのかな、とひとまず納得し、話題が中学生活や制限されるオヤジの小遣いなどに変わったが、しばらくして、また絵の話に戻った。というのは、手前の女性が気になり始めたのだ。写真に撮ると、それもボロっちぃガラケイで撮っているせいか、そう見て取れないかもしれないが、女性の茶色の箇所だが、黒いコートをまとった女性の髪の毛のように見え、だとすると上の赤い帽子のようなものはなんだろうと疑問がわく。

よく知られた錯視の「少女と老婆」の先にある飾りのようにも見えるのだが、そう解釈を述べると、カミさんから違うと反論される。黒いコートを椅子にかけ茶色のコートを着た女性なのだというのだ。

なるほどそうだ。でも黒いコートを着たままの女性とした場合、コートを脱いだとした場合の女性の首は、肘をつく男性の手にも見えるではないか。むしろコートを脱いでいる女性だとしたら、上半身が奇妙に長くないか。そんな疑問を発したのだが、大蔵大臣は黙ったままだった。

結局、これはだまし絵みたいなものなのだろうか。
レストランだけに、客にいっぱい食わせようという魂胆なのだろうか、と首をかしげ、減らされる小遣いも気になりながら店をあとにしたのであった。

色あせる記憶

堂々と生きてきたからか、恥ずかしい記憶などほとんどない。あってもすべて黒く塗りつぶしているから覚えていない。おかげで人生の記憶は真っ黒だ。
ところで記憶は古い写真のように時間とともに品質が低下し色あせていくという記事があった。
「音楽祭に行き、好きなバンドを見たことを覚えている人もいるかもしれせんが、明るい舞台照明や低音の強さなど、その官能的な経験の強さは徐々に消えていきます」ということらしい。

うーん、あまりピントこないが、きっと、こうしたことではないか。
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当たり前

なにげない日常の始まりのはずだった。
数日前、有料駐車場に一晩クルマを止め、翌朝出そうとしたときのこと。
バーの前にクルマを進め、駐車券を入れて表示された金額をコイン入れの中に入れる。すると「ありがとうございます。領主書の必要な方は領主書ボタンを押してください」とアナウンスが流れ、バーが持ち上がった。ごく通常の光景だ。
そしてクルマの先端をバーの下あたりまで進めたとき、ふと魔が差してしまった。
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時制

you は ヨウ ではなようだと、ようやく分かってきたようだな。
だから君たちに買ってきた本がある。「9マス 英作文」だ。もう何回かやったし、短い時間でもなんとなくこなせるようになっているようだけど、もう一度おさらいしてみよう。

マス上段の × ○ ? はそれぞれ否定形、肯定形、疑問形。
中段の数字、1,2、3 はそれぞれ1人称、2人称、3人称。11、22,33はそれぞれの複数形。
下段の時計は それぞれ過去形、現在形、未来形 を表すのだったね。下段を時制というんだった。

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happy birthday

南の島のしきたりも日本と一緒だ。すべてはカミさんが決める。
その夜も、そうだった。

予定はすでに チャモロ族の舞踊を見ながらのBBQ が組み込まれている。ホテルからの送迎バスに乗り込み、会場のある海辺に着くと入り口にチャモロの衣装をまとった男女が迎えてくれた。
そして受付でチケットを出すと、窓口のおばさんが、「happy birthday」と声をかけてくるではないか。
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マリアナ海溝

南の島のそばにはマリアナ海溝がひそかに横たわっている。世界で一番深いところだ。人生の深い闇をくぐってきたものだから分かる。きっと二番目に深いところより暗く、冷たいところだろう。
でもまさか魔物などいるはずはない、そうたかをくくっていたのが間違いの元だった。なんといたのだ。それも結構浅いところに。
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